過払金請求の際に問題になりやすい争点

更新日 2023/05/08
この過払金コラムを書いた弁護士
弁護士 羽賀 倫樹(はが ともき)

出身地:大阪府出身、奈良県育ち。出身大学:大阪大学法学部。

はじめに

過払金請求をすると、消費者金融・クレジットカード会社は、返還すべき過払金を少なくしようと、様々な争点を主張してくることがあります。ここでは、どのような争点が問題になりやすいか、業者側の主張が認められる可能性がどの程度あるか等、争点の概要について見ていきます。

問題になりやすい争点

過払金請求をする際に問題になりやすい争点は、

(1) 悪意の受益者(過払金に利息をつけるか)
(2) 取引の分断
(3) 貸付停止による個別時効の進行
(4) 非債弁済

等があります。

(1)悪意の受益者(過払金に利息をつけるか)

過払金は、法的には不当利得返還請求権というもので、業者が悪意の受益者(貸金業者が、利息制限法の制限利率を超える利息(グレーゾーン金利)を受領できないことを知っていた)の場合、過払金に利息を付けて返還しなければなりません(民法704条)。一方、業者が悪意の受益者ではない場合は、過払金に利息を付ける必要はありません。付加すべき利息は、年5%(民法付則(平成29年6月2日法律第44号)15条1項、改正前の民法404条。ただし、過払金の発生時期が令和2年4月1日以降の場合は年3%であることについて、民法404条1項・2項)と比較的大きく、過払金が発生してから実際に返還されるまでに時間が経つと、過払金利息は相当な額になります。事案によっては、過払金利息を付けるか付けないかで、返還されるべき金額が2倍以上の差になることがあります。

過払金利息を付加するかは、過払金が発生する全ての場合に問題になり、過払金利息の金額も大きくなりがちであるため、ほとんどの事案で業者側は争点にしてきます。ただ、以下のページに記載した通り、法的にはほとんどの場合過払金に利息が付加されます。

 

 

そのため、貸金業者に過払金請求をする場合は、法的には過払金利息が認められることを念頭に交渉・裁判を進める必要があります。

(2)取引の分断

貸金業者と取引する中で、一旦完済し、しばらくして再度借入をして取引を再開しているというケースがあります。この場合に、前の取引と後の取引を一つのものとみるか別のものとみるかが問題となり、一つのものとみると発生している過払金が大きくなり、別のものとみると発生している過払金は小さくなります。一旦完済した時期が10年以上前で、再借入の時は法定利率での契約である場合、二つの取引を別のものとみると過払金を回収できなくなります。

一旦完済し、その後再度取引を再開したというケースは、貸金業者との取引ではよくあり、争点が認められるかどうかで返還されるべき金額に大きな差が生じます。そのため、取引分断の争点は、過払金請求の中でよく問題になります。

この争点が認められるかはケースバイケースで、完済時の基本契約の解約の有無、先行する取引の期間、取引再開までの期間等を総合的に考慮して判断されることになります。ただ、判断要素は抽象的なもので、判断する裁判官によって結論がぶれやすいと言えます。詳しくは、以下のページをご覧ください。

(3)貸付停止による個別時効の進行

貸金業者に対する過払金の消滅時効は、基本的に取引終了時から10年とされています(最高裁判所平成21年1月22日判決)。その理由は、消滅時効が進行するには法律上の障害がないことが必要であるところ、リボ取引では、過払金充当合意があり、取引継続中は過払金充当合意が過払金返還請求の法律上の障害になるためとされています。

この点に関連して、消費者金融やクレジットカード会社との取引では、借り手側の信用状態等から、追加の貸付が停止されることがあります。このような場合、基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなり、過払金充当合意が解消される結果、貸付停止措置の時点から過払金の消滅時効が進行すると貸金業者が主張することがあります。過払金を請求した時点から10年以上前に貸付停止措置があった場合に問題となる争点で、この争点が認められると、過払金を請求した時点から遡って10年の間に返済した分しか過払金として返還されなくなりますので、返還される過払金が少なくなります。最後の返済が10年近く前の場合、争点が認められると返還されるべき過払金が極少額ということもあります。

貸金業者が貸付を停止することはよくあり、争点が認められるかどうかで返還されるべき金額に大きな差が生じます。そのため、貸付停止の争点は、過払金請求の中でよく問題になります。

この争点は、業者から主張されても簡単には認められないと言えますが、裁判官の考えによって結論がぶれやすいとも言えます。詳しくは、以下のページをご覧ください。

(4)非債弁済

非債弁済というのは、債務者が、債務が存在しないことを知りつつ弁済(返済)をした場合、その分の返還を求めることができないというものです(民法705条)。そのため、この争点が認められると、返還されるべき金額が少なくなります。ただ、この争点について貸金業者の主張が認められることはほとんどないと言えます。詳しくは、以下のページをご覧ください。

 

そのため、貸金業者に過払金請求をする場合は、法的には非債弁済の主張が認められづらいことを念頭に交渉・裁判を進める必要があります。

弁護士によるまとめ

過払金を請求すると、業者としてもできるだけ返還すべき過払金を減らそうとして、様々な主張をしてきます。過払金請求を弁護士に依頼する場合は、このような主張に対して適切な見通しを立てられる弁護士に依頼することが大切です。
過払い金にいて相談したい方は、お気軽にお問い合わせください。
過払い調査・計算サービス