合併・債権譲渡等により債権者が変わった場合の問題点
はじめに
過払金請求の対象となる貸金業者の中には、合併・債権譲渡・契約切替等により会社名が変わっていっているところがあります。合併・債権譲渡・契約切替等により取引をしている会社名が変わったことがある場合、どの会社に対して過払金請求をするべきか問題になることがあります。このページでは、大手消費者金融の一つであるプロミス(SMBCコンシューマーファイナンス)に関する合併・債権譲渡・契約切替等の問題を見ていきます。
プロミスに吸収合併された消費者金融1
プロミスに吸収合併された消費者金融会社の一つに、三洋信販(ポケットバンク)があります。三洋信販は福岡県に本社を置いていた消費者金融会社で、多くの消費者金融会社と同じく、利息制限法の制限利率を超える利率で貸付をしていました。そのため、三洋信販と取引では、過払金が発生することがよくありました。
この三洋信販ですが、2010年10月にプロミスに吸収合併されました。吸収合併の場合、吸収合併により消滅した会社の権利義務関係は、包括的に吸収合併存続会社に承継されます。そのため、三洋信販との取引で過払金が発生していた場合、過払金はプロミスに承継されています。
以上から、三洋信販と取引をしていたことがあり、途中でプロミスとの取引に変わったという場合は、プロミスに対して過払金返還請求をすることになります。
プロミスに吸収合併された消費者金融2
プロミスに吸収合併された消費者金融会社として、アットローンという会社があります。アットローンは、2011年4月にプロミスに吸収合併されました。ただ、アットローンは利息制限法の制限利率内で貸付をしていた会社であるため、過払金が発生しません。そのため、アットローンと取引をしていたことがあり、途中でプロミスとの取引に変わったという場合は、プロミスに対する過払金返還請求はできません。
債権譲渡・契約切替により取引先がプロミスに変わった場合
債権譲渡・契約切替により取引先がプロミスに変わったケースとして、クオークローン(リッチ・シンコウ・東和商事・ぷらっと)・サンライフと取引をしていたケースがあります。
このうち、クオークローンは、2007年6月18日にプロミスとの間で、以下の内容の合意をしました(最高裁判所平成23年9月30日判決が認定した事実関係から抜粋)。
クオークローンの合意内容(抜粋)
① | クオークローンが有する貸金債権をプロミスに移行する |
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② | クオークローンからプロミスへの移行を勧誘する顧客は、クオークローンとプロミスとの協議で定め、そのうち希望する顧客との間でプロミスが金銭消費貸借取引に係る基本契約を締結する |
③ | クオークローンに対する過払金は、プロミスとクオークローンが連帯してその責めを負うものとし、この連帯債務の負担部分の割合は、プロミスが0割、クオークローンが10割とする |
④ | プロミスとクオークローンは、切替顧客に対し、今後の全ての紛争に関する申出窓口をプロミスとする旨を告知する。プロミスは、切替顧客からの過払金等返還債務の請求に対しては、申出窓口の管理者として善良なる注意をもって対応する。 |
そして、顧客がプロミスと基本契約を締結する際、プロミスから、以下の内容等が記載された「残高確認書兼振込代行申込書」が示され、これに顧客が署名してプロミスに差し入れる形がとられました。
「残高確認書兼振込代行申込書」の内容
① | プロミスのグループの再編により、クオークローンに対して負担する債務をプロミスからの借入れにより完済する切替えについて承諾すること |
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② | クオークローンとの取引に係る約定利息を前提とする残債務の金額を確認し、これを完済するため、同額をクオークローン名義の口座に振り込むことをプロミスに依頼すること |
③ | クオークローンとの取引に係る紛争等の窓口が今後プロミスとなることに異議はないこと |
さらに、クオークローンとプロミスは、2007年10月16日、クオークローンからプロミスへの移行を勧誘する顧客のうち、プロミスとの間で基本契約を締結していない顧客に係る貸付債権であって別途特定するものをクオークローンからプロミスに譲渡する旨の合意をし、その後実際にクオークローンからプロミスに譲渡されました。
上記譲渡の合意には、クオークローンが譲渡債権にかかる顧客に対して負担する過払金について、プロミスが併存的に引き受ける旨の条項がありました。しかし、譲渡債権に係るクオークローンの貸主としての地位自体をプロミスに移転する旨又はクオークローンの負担する過払金が当然にプロミスに承継される旨を定めた条項はありませんでした。その後、平成20年12月15日、クオークローンとプロミスは上記債務引受条項を変更し、過払金につき、クオークローンのみが負担し、プロミスは譲渡債権に係る顧客に対し何らの債務及び責任を負わないことを内容とする契約を締結しました。
最高裁判所の判断
以上の事実関係をもとに、最高裁判所は、契約切替に応じた人については、プロミスによる債務引受についての受益の意思表示があるものとして、クオークローンとの取引の際に発生した過払金も含めてプロミスに請求ができると判断しました(最高裁判所平成23年9月30日判決)。
一方、契約切替ではなく債権譲渡によりプロミスに債権者が変わったケースについては、平成20年12月15日の債務引受条項の変更までに、債務引受についての受益の意思表示はされていないとして、クオークローンとの取引の際に発生した過払金はプロミスに請求できないと判断しました(最高裁判所平成24年6月29日判決)。
事案の種類 | プロミスに請求ができるかどうか |
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契約切替事案 | クオークローンとの取引の際に発生した過払金も含めてプロミスに請求ができる |
債権譲渡事案 | クオークローンとの取引の際に発生した過払金はプロミスに請求できない |
弁護士のまとめ
このように、クオークローンからプロミスに取引が移行した場合は、移行の際の処理方法によって、クオークローンとの取引の際に発生した過払金をプロミスに請求できるかの結論が変わります。なお、クオークローンからプロミスに取引が移行した際に、引き直し計算をすると実際の債務が約定債務より少なくなっているものの、過払金発生には至っていないのであれば、過払金の引き受けという問題は発生しませんので、契約切替でも債権譲渡でも、プロミスに請求できる過払金の額に差は生じません。
債権譲渡でプロミスに債権者が変わった場合、クオークローンとの取引の際に発生した過払金はクオークローンが請求先になりますが、既に破産しているため回収することはできません。
なお、サンライフとプロミスの関係も同様で、契約切替であればプロミスに対して過払金請求できますが、債権譲渡であればサンライフとの取引の際に発生した過払金はプロミスに請求できないと考えられます。