過払金返還請求に関する最高裁判例

更新日 2023/09/20
この過払金コラムを書いた弁護士
弁護士 羽賀 倫樹(はが ともき)

出身地:大阪府出身、奈良県育ち。出身大学:大阪大学法学部。

はじめに

消費者金融やクレジットカード会社から高利で借入をしていた場合、過払金返還請求をすることが可能です。この点について、過払金返還請求が可能なのは当然の話ではなく、法律の条文があって初めて可能になっていることは、以下のコラムに記載しました。

 

過払金返還請求に関する法律の条文

 

ただ、法律は全ての事柄について定めているわけではなく、条文上の定めがないか、明確ではない場合は、裁判所が判断をするようになっています。特に過払金返還請求は定められている条文の数が少なく、他の法律分野よりも裁判所の判断が重要になることが多いと言えます。ここでは、過払金返還請求に関する裁判例の中でも重要になる最高裁判例についてまとめて見ていきます。

過払金返還請求に関する最高裁判例

1 最高裁判所昭和37年6月13日大法廷判決 民集第16巻7号1340頁

借主が利息制限法所定の制限を超える金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払ったときは、制限を超える金員は、残存元本に充当されないと判断した最高裁判決です。

利息制限法には、平成22年6月17日までは、借主が利息制限法所定の制限利率の超過部分を任意に支払ったときは、その返還を請求することができないとする規定がありました。この判決では、超過部分の返還を求めることができない以上、返還を受けるのと同様の利益状態となる残存元本への充当も認められないとされました。

この判断内容からすると、利息を払いすぎたとしても、貸付金元本は減りませんし、過払金返還請求もできないことになります。ただ、下記の通り、この判決は最高裁昭和39年11月18日判決により変更されています。

 

2 最高裁判所昭和39年11月18日大法廷判決 民集第18巻9号1868頁

借主が利息制限法所定の制限を超える金銭消費貸借上の利息、損害金を任意に支払ったときは、制限を超える部分は、民法第491条により、残存元本に充当されると判断した最高裁判決です。

この判断内容からすると、利息を払いすぎた場合、貸付金元本が減ることになります。ただし、この判決では過払金返還請求までは認められていません。

 

3 最高裁判所昭和43年11月13日大法廷判決 民集第22巻12号2526頁

借主が利息制限法所定の制限を超えて任意に利息・損害金の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当すると、計算上元本が完済となったとき、その後に支払われた金額は不当利得(過払金)として返還請求ができると判断した最高裁判決です。

この裁判例は、かつての利息制限法1条2項の規定を空文化するもので、現在行われている過払金返還請求の基礎になるものと言えます。

 

4 最高裁昭和44年11月25日第三小法廷判決 民集第23巻11号2137頁

上記の昭和43年11月13日判決は、計算上元本が完済になった後に支払われた金額についての過払金返還を認めたものですが、この判決は、元本と超過利息を一括して支払った場合でも過払金返還請求ができるとしたものです。

 

5 最高裁判所平成16年2月20日第二小法廷判決 民集第58巻2号475頁

昭和39年~昭和44年の最高裁判決により、利息制限法の制限利率を超える利率の設定は認められないことになりました。しかし、昭和58年11月1日施行の貸金業法で、一定の要件のもと利息制限法の制限利率を超える利息の設定が認められることになります。具体的には、以下の①~④の要件を満たすと超過利息の取得が認められていました。

 

超過利息の取得が認めらる要件

貸金業者に対する利息または損害金の支払であること
貸金業法17条所定の記載要件を満たした書面が借主に交付されたこと(17条書面の交付)
貸金業法18条所定の記載要件を満たした書面が借主に交付されたこと(18条書面の交付)
法定利息を超える金銭を、利息または損害金として、任意に支払ったこと(任意性の要件)

 

そのため、どのような場合であれば上記①~④の要件を満たし、超過利息の取得が認められることになるかについて争われるようになりました。

表題の最高裁平成16年2月20日判決は、上記②の17条書面について、「17条書面には、法17条1項所定の事項のすべてが記載されていることを要するものであり、その一部が記載されていないときは、法43条1項適用の要件を欠くというべきであって、有効な利息の債務の弁済とみなすことはできない」と判断したものです。超過利息の取得を容易に認めず、借主側に有利な判断をした判決と言えます。

 

6 最高裁判所平成17年7月19日第三小法廷判決 民集第59巻6号1783頁

過払金請求をするためには、業者との取引状況を明らかにする必要がありますが、かつては業者側が取引履歴を開示しないことがありました。そのため、過払金が発生している可能性があるにもかかわらず、借主が過払金返還請求を断念せざるを得ないことがありました。表題の判決は、この点について、業者に取引履歴の開示義務があると判断したものです。取引履歴の開示義務が認められることで、過払金計算・請求がやりやすくなったと言えます。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

過払金の請求における取引履歴の開示について

 

7 最高裁判所平成17年12月15日第一小法廷判決 民集第59巻10号2899頁

多くの消費者金融やクレジットカード会社が採用しているリボ払い契約の場合の17条書面について、個々の貸付けの時点での残元利金について、最低返済額及び経過利息を一定の返済期日に返済する場合の返済期間、返済金額等を記載することを求め、記載がなければみなし弁済の要件のうち、②の17条書面の要件が満たされず、みなし弁済は認められないと判断した判決です。

上記の返済期間、返済金額等は、リボ払いの17条書面では多くの場合記載されていないため、この最高裁判決により、多くの貸金業者が採用しているリボ払いの大半で、みなし弁済が認められなくなった言われます。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

過払金回収の際のみなし弁済の問題点

 

8 最高裁判所平成18年1月13日第二小法廷判決 民集第60巻1号1頁

18条書面について、貸金業法施行規則の規定内容に関わらず、契約番号の記載では法律の要件を満たさず、①貸金業者の商号、名称、または氏名および住所、②契約年月日、③貸付金額の記載が必要と判断した判決です。多くの貸金業者は、18条書面の記載内容について、貸金業法施行規則の規定に合わせていたと考えられるため、この最高裁判決により、多くの貸金業者について、みなし弁済が認められなくなりました。

また、この最高裁判決では、利息制限法の制限利率を超える利率が定められている場合に、「元金又は利息の支払いを遅滞したとき‥は催告の手続きを要せずして期限の利益を失い直ちに元利金を一時に支払います。」との期限の利益喪失特約がある場合は、みなし弁済の要件のうち、④の任意性の要件が満たされず、みなし弁済は認められないと判断されています。全ての貸金業者が採用していた期限の利益喪失特約によって任意性の要件を満たさないと判断したものであり、この最高裁判決により、みなし弁済が認められる可能性はなくなったと言われます。

そのため、過払金返還請求において最も重要な判決と言えるかもしれません。現に、この判決の後、貸金業者に対する過払金返還請求が急増することになります。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

過払金回収の際のみなし弁済の問題点

 

9 最高裁判所平成19年6月7日第一小法廷判決 民集第61巻4号1537頁

基本契約が締結されている継続的金銭消費貸借契約取引について、発生した過払金を新たな借入金に充当することを内容とする過払金充当合意があることを認めた判決です。新たな借入金と過払金が併存せず、新たな借入金に過払金が充当されるとなると、業者は新たな借入金に対する利息を取得できなくなります。そのため、この判決は借主に有利な判断をしたものと言えます。

 

10 最高裁判所平成19年7月13日第二小法廷判決 民集第61巻5号1980頁

超過利息の受領について貸金業法43条1項の適用が認められない場合には、貸金業者が、①同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、②そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り、過払金に対して利息を付加して返還しないといけないと判断した判決です。

多くの場合に、過払金に利息が付加されることになるため、借主側に有利な判断をしたものと言えます。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

過払金回収の際の悪意の受益者の争点

 

11 最高裁判所平成20年1月18日第二小法廷判決 民集第62巻1号28頁

基本契約が複数ある場合でも、第一取引の期間や、貸付再開までの期間等を考慮して、一連で計算できる場合があると判断した判決です。

なお、この判決で判断要素は示されているものの、同じような事案でも、裁判官によって判断が分かれる状態となっているのが現状です。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

過払金回収の際の取引分断の争点

 

12 最高裁判所平成21年1月22日第一小法廷判決 民集第63巻1号247頁

継続的に貸し借りができるリボ払い取引では、過払金の消滅時効は、原則として取引が終了した時点から進行すると判断した判決です。過払金が発生した時点から個別に10年で消滅時効にかかるわけではありませんので、借主側に有利な判断をしたものと言えます。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

過払金の請求期限(消滅時効)

 

13 最高裁判所平成21年9月4日第二小法廷判決 集民第231号477頁

継続的に貸し借りができるリボ払い取引でも、過払金が発生した時から利息が付加されると判断した判決です。リボ払い取引では、過払金が発生してもすぐには消滅時効が進行せず、原則として取引が終了した時点から進行すると判断した平成21年1月22日判決とあわせて考えると、過払金に対し10年以上の長期間にわたる利息が付加されることを認めたことになります。

 

14 最高裁判所平成22年4月20日第三小法廷判決 民集第64巻3号921頁

利息制限法1条1項の「元本」について、以下のように判断した判決です。

利息制限法1条1項の「元本」に関する判断

利息制限法における元本とは、約定利率に基づいて存在する元本ではなく、利息制限法所定の利率に引き直した上で存在する元本のことを指す。
追加借入をすることで、借入金元本が10万円未満から10万円以上になったときは18%が上限利率になり、100万円未満から100万円以上に増加したときは15%が上限利率になる。
返済によって、借入金元本が100万円以上から100万円未満になっても上限利率は15%のまま、10万円以上から10万円未満になっても上限利率は18%のままとする。

 

①は業者が取得できる上限利率を高くする方向に働くため、借主に不利な判断をしたものと言えます。一方、②③は業者が取得できる上限利率を低くする方向に働くため、借主に有利な判断をしたものと言えます。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

過払金回収に関わる様々な利率

 

15 最高裁判所平成23年5月18日第二小法廷決定 民集第65巻4号175頁

複数の貸金業者に対する過払金請求について、単独では140万円以下で簡易裁判所での手続きになる場合でも、まとめて地方裁判所で手続きすることを認めた裁判例です。別々に簡易裁判所で手続きをしなければならないとすると負担が大きく、地方裁判所でまとめて手続きができれば負担が軽くなるため、借主に有利な判断をしたものと言えます。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

過払金裁判の管轄(過払金の裁判はどこの裁判所で行うか)

 

16 最高裁判所平成23年9月30日第二小法廷判決 集民第237号655頁

契約切替により取引先がクオークローンからプロミスに変わった場合、クオークローンで発生した過払金も含めてプロミスに請求できると判断した判決です。クオークローンは既に破産した会社で過払金の回収ができませんが、プロミスに引き継がれていれば今でも請求ができるため、借主に有利な判断をしたものと言えます。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

合併・債権譲渡等により債権者が変わった場合の問題点/

 

17 最高裁判所平成23年12月1日第一小法廷判決 集民第238号189頁

CFJについて、ほとんどの取引で過払金利息が付加されると判断した判決です。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

CFJと悪意の受益者(過払金利息)の判断

 

18 最高裁判所平成23年12月1日第一小法廷判決 判タ1364号78頁

プロミスについて、ほとんどの取引で過払金利息が付加されると判断した判決です。判決内容からすると、プロミスの場合、CFJより過払金利息が付加されないケースが若干多いと考えられるものの、現状、プロミスに対する過払金返還請求訴訟で、プロミスが悪意の受益者について本格的に争ってくることはほとんどありません。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

プロミスと悪意の受益者(過払金利息)の判断

 

19 最高裁判所平成23年12月15日第一小法廷判決 消費者法ニュース91巻48頁

アコムについて、ほとんどの取引で過払金利息が付加されると判断した判決です。判決内容からすると、アコムの場合、プロミス・CFJより過払金利息が付加されないケースが若干多いと考えられるものの、現状、アコムに対する過払金返還請求訴訟で、アコムが悪意の受益者について本格的に争ってくることはほとんどありません。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

アコムと悪意の受益者(過払金利息)の判断

 

20 最高裁判所平成24年6月29日第二小法廷判決 集民第241号1頁

債権譲渡により取引先がクオークローンからプロミスに変わった場合、クオークローンで発生した過払金はプロミスに請求できないと判断した判決です。契約切替事案とは結論が逆になっており、借主に不利な判断をしたものと言えます。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

合併・債権譲渡等により債権者が変わった場合の問題点

 

21 最高裁判所平成24年9月11日第三小法廷判決 民集第66巻9号3227頁

リボルビング方式の無担保ローン取引と、一度借り入れた後返済のみを行う不動産担保ローン取引は、同日の切り替えであっても一連計算はできないと判断した判決です。この判決内容から、リボ無担保ローン→返済のみの不動産担保ローンへの切り替えがある場合、一連で計算するより発生する過払金が小さくなります。また、無担保ローンから不動産担保ローンへの切り替えが10年以上前に行われ、不動産担保ローンの契約利率が利息制限法内であれば過払金の回収ができなくなります。そのため、この判決は、借主に不利な判断をしたものと言えます。

 

【この判決の詳細を記載したコラム】

過払金回収の際の不動産担保ローンの問題点

 

22 最高裁判所平成25年4月11日第一小法廷判決 集民第243号303頁

継続的に貸し借りができるリボ払い取引で、引き直し計算の結果過払金が発生している状況で新たな借入をした場合、過払金利息→過払金元金の順に新たな借入金に充当すると判断した判決です。新たな借入金について過払金元金から充当する場合より、今後発生する過払金利息が大きくなり、請求できる過払金が大きくなるため、借主に有利な判断をしたものと言えます。

 

 

以上の最高裁の判断の後も、過払金返還請求に関する最高裁判決は出ていますが、令和5年時点では、大きな争点に関わるものは出ていないように思われます。これまでの最高裁の判断により多くの争点が解決したこと、過払金返還請求訴訟が以前より少なくなり、最高裁判所が判断する機会が減っていること等が理由と思われます。

弁護士によるまとめ

以上、過払金返還請求に関する主要な最高裁判所判例について見てきました。数多くの最高裁判例により、今の過払金返還請求が可能となっていることが分かります。細かく見ていくとややこしそうに見えますが、弁護士に依頼すれば手続き全般を任せることができますので、過払金調査・請求をしたいとお考えの方はご相談ください。
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