過払金返還請求に関する法律の条文

更新日 2023/07/09
この過払金コラムを書いた弁護士
弁護士 羽賀 倫樹(はが ともき)

出身地:大阪府出身、奈良県育ち。出身大学:大阪大学法学部。

はじめに

消費者金融やクレジットカード会社から高利で借入をしていた場合、過払金返還請求をすることが可能です。ただ、これは当然の話ではなく、様々な法律の条文があって初めて可能になっているものです。このページでは、過払金返還請求に関する法律の条文を見ていきます。

過払金返還請求に関する法律の条文

① 民法703条(不当利得の返還義務)

民法703条は、「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、‥これを返還する義務を負う。」と定めています。貸金業者は、利息制限法の制限利率を超える利率を設定して利益を受け、借主に損失を及ぼしたと言えますので、この条文により過払金の返還義務を負います。過払金返還請求の最も基本的な条文と言えるでしょう。

 

② 民法704条(悪意の受益者の返還義務等)

民法704条は、「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。」と定めています。過払金返還請求における悪意の受益者とは、簡単に言うと、貸金業者が、利息制限法の制限利率を超える利息(グレーゾーン金利)を受領できないことを知っていたというような意味です。

過払金返還請求をする場合に、貸金業者が悪意の受益者であり、過払金利息が付加されるかはかつて争いがありましたが、現在では、貸金業者が悪意の受益者ではないと判断されることはほぼ考えられません。そのため、法的には、ほとんどの場合、過払金に利息が付加されて返還されることになります。悪意の受益者についての詳細は、下記のページをご覧ください

 

③ 民法705条(債務の不存在を知ってした弁済)

民法705条は、「債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない。」と定めています。過払金返還請求の場面で言うと、借主が返済をする際に、実は借金がないことを知っていたときは、過払金返還請求ができないということになります。
ただ、この条文があることで、借金の返済が非債弁済と判断されて過払金請求ができなくなるケースはほぼないと考えられます。非債弁済についての詳細は、下記のページをご覧ください。

 

④ 利息制限法1条(利息の制限)

過払金返還請求においては、利息の上限を定めた利息制限法1条が重要な条文と言えます。具体的には、以下のように定められています。

 

金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。

一 元本の額が10万円未満の場合 年二割

二 元本の額が10万円以上100万円未満の場合 年一割八分

三 元本の額が100万円以上の場合 年一割五分

貸金業者は、例えば、50万円の貸付について29.2%といった利率を設定していました。そのため、設定されていた利率と、利息制限法の上限利率の差の分について、過払金として返還請求ができます。利息制限法1条の解釈に関する詳細は、下記のページをご覧ください。

 

⑤ 貸金業法旧43条1項

先ほど、貸金業者は、利息制限法の上限利率を超える利率を設定していたと記載しましたが、なぜそのような利率を設定していたのでしょうか。利息制限法上、上限利率以上を設定することができないのは明らかなようにも思えます。それにもかかわらず、高い利率が設定されていたのは理由があり、貸金業法旧43条1項で、一定の要件のもと、利息制限法の上限利率を超える利率の設定が認められていたからです。具体的には以下のように定められていました。

 

貸金業法旧43条1項

貸金業者が業として行う金銭を目的とする消費貸借上の利息(利息制限法第3条の規定により利息とみなされるものを含む。)の契約に基づき、債務者が利息として任意に支払った金銭の額が、同法第1条第1項に定める利息の制限額を超える場合において、その支払が次の各号に該当するときは、当該超過部分の支払は、同項の規定にかかわらず、有効な利息の債務の弁済とみなす。
一 第17条第1項‥の規定により第17条第1項に規定する書面を交付している場合又は同条第2項から第4項まで‥の規定により第17条第2項から第4項までに規定するすべての書面を交付している場合におけるその交付をしている者に対する貸付けの契約に基づく支払
二 第18条第1項‥の規定により第18条第1項に規定する書面を交付した場合における同項の弁済に係る支払

 

 

少し分かりにくい条文ですが、以下の①~④の要件を満たすことで、利息制限法の上限利率を超える利率の設定が認められていました。

① 貸金業者に対する利息または損害金の支払であること
② 貸金業法17条所定の記載要件を満たした書面が借主に交付されたこと(17条書面の交付)
③ 貸金業法18条所定の記載要件を満たした書面が借主に交付されたこと(18条書面の交付)
④ 法定利息を超える金銭を、利息または損害金として、任意に支払ったこと(任意性の要件)

 

一見簡単に要件が認められそうですが、裁判所において厳格な判断が積み重ねられ、最終的に、最高裁判所でみなし弁済が認められることがほぼなくなる判断がされました。みなし弁済についての詳細は、下記のページをご覧ください。

⑥ 民法166条1項(債権等の消滅時効)

消費者金融やクレジットカード会社との取引で発生した過払金は、いつまで経っても請求ができるわけではなく、一定の期間が過ぎると消滅時効により請求ができなくなります。消滅時効は、民法166条1項で以下のように定められています。

 

民法166条1項

債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

 

過払金も債権の一種ですので、上記の条文により、長期間請求しない場合は、消滅時効により請求ができなくなります。過払金の消滅時効についての詳細は、下記のページをご覧ください。

⑦ 貸金業法19条・貸金業法19条の2

貸金業者から借入をしたり、返済をしたりすると、その都度取引明細書面が発行されます。その書面が全てあれば、過払金が発生しているか、発生しているとすればいくら発生しているかを明らかにできます。しかし、借主がその書面の全てを保管しているケースは少ないと考えられ、借主が保管している書面だけで過払金を算定するのは困難です。そのため、貸金業法19条・19条の2で、貸金業者には、帳簿の保存と、開示義務があることが定められています。具体的には以下のように定められています。

 

貸金業法19条(帳簿の備付け)

貸金業者は、内閣府令で定めるところにより、その営業所又は事務所ごとに、その業務に関する帳簿を備え、債務者ごとに貸付けの契約について契約年月日、貸付けの金額、受領金額その他内閣府令で定める事項を記載し、これを保存しなければならない。

貸金業法19条の2(帳簿の閲覧)

債務者等又は債務者等であった者その他内閣府令で定める者は、貸金業者に対し、内閣府令で定めるところにより、前条の帳簿(利害関係がある部分に限る。)の閲覧又は謄写を請求することができる。この場合において、貸金業者は、当該請求が当該請求を行った者の権利の行使に関する調査を目的とするものでないことが明らかであるときを除き、当該請求を拒むことができない。

この条文により、貸金業者から取引履歴が開示され、借主が過払金を算定することが可能になります。取引履歴の開示についての詳細は、下記のページをご覧ください。

弁護士によるまとめ

このように、様々な法律の条文があって、過払金返還請求が可能になっています。難しい判断が必要になることもありますが、弁護士に手続きを任せれば、法律の解釈・判断についても任せることができます。
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