借入をしていた人が亡くなった場合の過払金請求

更新日 2023/02/28
この過払金コラムを書いた弁護士
弁護士 羽賀 倫樹(はが ともき)

出身地:大阪府出身、奈良県育ち。出身大学:大阪大学法学部。

はじめに

消費者金融から借入をしていたり、クレジットカードでキャッシング取引をしていた場合、過払金が発生していて請求できる可能性があります。請求できるのは借入をしていた本人になりますが、その本人が亡くなってしまった場合、過払金は請求できるのでしょうか。このページでは、借入をしていた人が亡くなった場合の過払金請求について見ていきます。

誰が請求するか

過払金は、不当利得返還請求権という請求権ですので、借入をしていた人が亡くなった場合、相続人から請求ができます。相続人は、民法887条・889条・890条で、①子、②直系尊属、③兄弟姉妹の順で相続人になること、夫または妻は常に相続人になることが定められています。

以上の規定から、借入をしていた人が亡くなった場合、夫または妻は相続により過払金の請求ができます。また、子がいれば、子も過払金請求ができます。亡くなった人に子がいなければ、直系尊属(父・母等)から過払金請求ができます。子・直系尊属がいなければ、兄弟姉妹から過払金請求ができます。

どのような割合で請求できるか

相続人が一人であれば、その相続人が過払金全体について請求できます。相続人が複数人いる場合は、民法900条により以下の割合で請求できます。

相続人が複数人いる場合の相続割合

子と配偶者が相続人であるときは、子が2分の1、配偶者が2分の1
配偶者と直系尊属が相続人であるときは、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1
配偶者と兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1
子・直系尊属・兄弟姉妹が複数人いるときは、相続分を等分する。例えば、子2名と配偶者が相続人の場合、子2名は4分の1ずつ、配偶者は2分の1になります。

相続人が複数の場合、相続人全員からの手続きが必要か

原則的な考え方

過払金返還請求権は、相続が発生すると当然に分割されます(最高裁昭和29年4月88日第一小法廷判決、最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決、最高裁平成16年4月20日第三小法廷判決)。そのため、原則的な考え方としては、過払金の有無の調査にしても、実際に過払金を請求するにしても、相続人全員からの手続きは不要で、相続人のうち一人からの手続きが可能です。ただし、実際に手続きをする際は、必ずしもこの考え方がそのまま使えないことがあります。

過払金の有無の調査

過払金の有無の調査の際は、消費者金融やクレジットカード会社に対し、取引履歴の開示請求をします。取引履歴の開示請求については、消費者金融やクレジットカード会社は、相続人一人からの請求に応じています。そのため、過払金の有無の調査については、相続人のうち一人からの手続きができるという原則的な考え方がそのまま使えることになります。

過払金の請求

しかし、実際に過払金請求をするとなると、単独で請求すると過払金全体の一部しか回収できませんし、消費者金融やクレジットカード会社から相続人全員から請求してほしいとして、裁判外での解決ができない可能性もあります。そのため、実際に過払金請求をする場合は、相続人のうち一人からの手続きが可能という原則的な考え方に関わらず、相続人全員から弁護士に手続きをご依頼いただくことをお勧めしています。

いつまで請求できるか

過払金には請求期限があります。詳細は以下のページに記載しています。

 

コラム:過払金の請求期限(消滅時効)

 

相続人からの請求の場合も考え方は同じで、基本的には完済時点から時効が進行します。相続人が亡くなってから時効が進行するわけではないので注意が必要です。なお、被相続人が亡くなる前に借金を完済し、その後亡くなったというケースで、亡くなってから10年以上経過している場合は、過払金は消滅時効にかかり請求ができません。

債務が残っていて過払金が発生しているか分からない場合

借入をしている方が、返済途中で亡くなってしまった場合、そのまま相続すると借金を引き継いでしまう可能性があります。相続は、自身が相続人となったことを知った時、または、被相続人に負債があったことを知った時から3か月以内に、相続放棄するか、承認するか判断しないといけません(民法915条1項本文)。

 

しかし、3か月以内に財産や負債の状況を調査して、相続放棄するか承認するか判断するかは難しいケースがあります。消費者金融やクレジットカードからの借入について、負債が残っているか過払金があるかの調査も、業者が取引履歴を開示するまでに時間がかかったり、過払金の有無の計算のために時間がかかったりして、3か月以内に過払金の有無の判断ができないことがあります。そのような事態に対応するため、3か月以内に過払金の有無が確定できない場合、相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立をして、相続放棄するか承認するかの判断の期間を伸ばせるという制度があります(民法915条1項ただし書き)。

 

そのため、亡くなった方に借金が残っており、過払金があるか調べたいという方については、過払金の有無の調査とともに、ご依頼時期によっては相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立をすることをお勧めします。その結果、過払金が発生していれば業者に請求できますし、過払金が発生しておらず、亡くなった方に他に財産がないのであれば相続放棄の手続きをすることになります。

過払金請求の際の必要資料

相続人から過払金の請求をしようとする場合、誰が相続人であるかを確認しないといけません。そのため、亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍が必要です。

弁護士によるまとめ

以上の通り、借金をしていた方が亡くなった場合、相続人から過払金の請求が可能です。ただ、相続人の方は取引の詳細が分からないケースが多いと思いますし、相続の場合は通常の過払金請求とは異なる手続きが必要になるケースがあります。ご自身で手続きするのは難しいケースが多いため、亡くなった方の過払金調査・請求をしたいという方は、弁護士に相談することをお勧めします。
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