過払金の請求期限(消滅時効)

更新日 2022/09/27
この過払金コラムを書いた弁護士
弁護士 羽賀 倫樹(はが ともき)

出身地:大阪府出身、奈良県育ち。出身大学:大阪大学法学部。

消滅時効に関する民法の規定

消費者金融やクレジットカード会社との取引で発生した過払金は、いつまで経っても請求ができるわけではなく、一定の期間が過ぎると消滅時効により請求ができなくなります。具体的な期間ですが、民法166条1項で、以下のいずれか早い方の期間が経過すると消滅時効が成立するものとされています。

消滅時効の成立要件

①権利行使できることを知った時から5年

②権利行使できる時から10年

消滅時効に関する民法の条文改正

ただし、以上の規定は、2020年4月1日以降に発生した過払金に適用されるもので、2020年3月31日以前に発生した過払金の消滅時効は、権利行使できる時から10年とされています(改正民法の2020年4月1日施行前の民法166条1項、167条1項)。二つを比較すると、権利行使できる時から10年というのは共通していますが、2020年4月1日以降に発生した過払金は、権利行使できることを知った時から5年が経過した場合も消滅時効にかかるものとされています。そのため、2020年4月1日以降に発生した過払金の方が、短期間で消滅時効にかかる可能性があります。

2020年4月1日に施行された民法で新たに設けられた消滅時効期間である、権利行使できることを知った時というのがどのような場合を指すかですが、2022年時点で改正民法施行から5年を経過していないため、裁判所で示された判断はありません。改正民法施行から5年を経過した2025年4月以降、徐々にその意味が明らかになってくると思われます。

過払金請求における、「権利を行使することができる時」の意味

消費者金融やクレジットカード会社が一般的に採用しているリボ取引では、返済のたびに過払金が発生します。しかし、過払金が発生したとしても、貸金業者から貸付金がまだ残っているとして請求を受けている状態では、実際に過払金を請求するのは困難です。そのため、過払金は発生した時点から個別に10年で消滅時効にかかるのか、完済するなどして取引が終了した時点から10年で消滅時効にかかるのかが問題となります。この問題点は、一般的に、民法166条1項の「権利を行使することができる時」というのが、権利を行使するのに法律上の障害がなくなった時を指すものとされている関係で、リボ取引で法律上の障害がなくなった時とはどのような時を指すのかという問題になります。

以上の問題点について、最高裁判所平成21年1月22日判決は以下のとおり判断しています(読みやすくするために、最高裁判所の原文に一部改変を加えています)。

最高裁判所の判断(平成21年1月22日判決)

「(本件リボ取引の基本契約は、過払金が発生した場合には、)弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意(以下「過払金充当合意」という。)を含むものであった。

このような過払金充当合意においては、新たな借入金債務の発生が見込まれる限り、過払金を同債務に充当することとし、借主が過払金に係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という。)を行使することは通常想定されていないものというべきである。したがって、一般に、過払金充当合意には、借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点、すなわち、基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし、それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず、これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものと解するのが相当である。そうすると、過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては、同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり、過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。

借主は、基本契約に基づく借入れを継続する義務を負うものではないので、一方的に基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引を終了させ、その時点において存在する過払金の返還を請求することができるが、それをもって過払金発生時からその返還請求権の消滅時効が進行すると解することは、借主に対し、過払金が発生すればその返還請求権の消滅時効期間経過前に貸主との間の継続的な金銭消費貸借取引を終了させることを求めるに等しく、過払金充当合意を含む基本契約の趣旨に反することとなるから、そのように解することはできない。

したがって、過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては、同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は、過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り、同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である。」

最高裁判所の判断内容

この判決で、過払金については、基本的に取引終了時点から10年で消滅時効が完成するとされています。過払金が発生した時点から個別に10年で消滅時効にかかるわけではありませんので、借主側に有利な判断をしたものと言えます。

なお、判決で特段の事情があれば取引が終了する前に消滅時効が進行するものとされています。近時特段の事情としてよく主張されているのは、貸付停止の争点です。この争点については以下のページを参照してください。

過払金回収の際の貸付停止措置の争点

弁護士によるまとめ

以上、過払金回収の際の消滅時効の問題について記載しました。取引終了時点から10年というのが基本的な考え方ですが、例外的に個別に時効が進行することもありますし、2020年4月1日以降に発生した過払金は5年で消滅時効にかかる可能性があります。消滅時効の問題を避けるには、できるだけ早く過払金請求を弁護士に依頼することが大切です。
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