過払金算定のための引き直し計算について
はじめに
消費者金融やクレジットカード会社に対する過払金の有無や金額を判断するには、引き直し計算という作業をする必要があります。引き直し計算というのは、約定では利息制限法所定の制限利率を超える利率が設定されている場合に、利息制限法所定の制限利率に変更して計算するものです。約定利率より低い利率で計算し、支払った約定利息の一部が約定と異なり元本に充当される結果、残る元本は約定より少なくなりますし、場合によっては元本が0円になって過払金が発生します。
引き直し計算の概要は以上の通りですが、このページでは引き直し計算について少し詳しく見ていきます。
引き直し計算をするかどうか
貸金業者との取引について過払金の有無や金額を判断する際は、業者から取引履歴を取り寄せます。
取引履歴上、完済してから10年以上経過していると、仮に過払金が発生していたとしても消滅時効で過払金が回収できないため(民法166条)、引き直し計算を行う必要がありません。また、取引開始が2010年(平成22年)6月18日以降であるなど、利息制限法の制限利率を超えていないことが明らかである場合や、取引履歴に記載された約定利率が利息制限法の制限利率以内となっている場合は、過払金が発生しないため、引き直し計算を行う必要がありません。
引き直しが必要ないケース
① | 完済してから10年以上経過している |
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② | 取引開始が2010年(平成22年)6月18日以降であるなど、利息制限法の制限利率を超えていないことが明らかである場合 |
③ | 取引履歴に記載された約定利率が利息制限法の制限利率以内となっている場合 |
引き直し計算の際に必要になる基本的情報
引き直し計算に当たって必要になる基本的情報は、取引日(借入日・返済日)、取引金額、引き直し後残高に基づく適用利率、支払遅滞時の遅延損害金利率です。
以上のうち、取引日(借入日・返済日)と取引金額は、業者から開示される取引履歴に記載されています。
業者から開示される取引履歴に必ず記載されている情報
・取引日(借入日・返済日)
・取引金額
また、引き直し後残高に基づく適用利率は、元本が10万円未満の場合で年20%、元本が10万円以上100万円未満の場合で年18%、元本が100万円以上の場合で年15%です(利息制限法1条)。また、支払遅滞時の遅延損害金利率は、2000年5月31日までは利息制限法の上限利率の2倍、2000年6月1日から2010年6月17日までは利息制限法の上限利率の1.46倍、2010年6月18日以降は20%です(利息制限法4条、7条1項)。このような仕組みですので、引き直し後の元本残高と取引時期から、適用利率を判断する必要があります。
取引履歴から見えてくる過払金算定上の争点
取引履歴を確認すると、以下のような場合に業者との間で過払金算定上の争点が発生することが予測できます。
業者との間で過払金算定上の争点が発生することが予測できるケース
① | 取引の途中で完済し、その後取引を再開している場合 |
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② | 10年間対象業者からの貸付を受けておらず、返済しかしていない場合で、10年前の時点で過払金がすでに発生している場合 |
争点の具体的内容は以下の通りです。
⑴ 取引の分断の争点
取引の途中で完済し、その後取引を再開している場合、完済前の取引と再開後の取引が別の取引と判断される可能性があります。別の取引と判断されると回収できる過払金が減ってしまうため、取引の中断がある場合は、基本契約の解約の有無や取引の中断期間等によっては、完済前の取引を含む引き直し計算以外に、再開後の取引のみの引き直し計算を行うケースがあります。
⑵ 貸付停止の争点
過払金を請求した時点から遡って10年間対象業者からの貸付を受けておらず、返済しかしていない場合で、10年前の時点で過払金がすでに発生している場合、業者から貸付停止の争点を主張される可能性があります。貸付停止の争点が認められると、消滅時効の起算点が、取引終了時ではなく、個別に過払金が発生した時点になります。そうなると、過払金を請求した時点から遡って10年の間に返済した分しか過払金として返還されなくなり、返還される過払金は少なくなってしまいます。そのため、過払金を請求した時点から遡って10年間対象業者からの貸付を受けておらず、返済しかしていない場合で、10年前の時点で過払金がすでに発生している場合は、取引全体についての引き直し計算以外に、請求前10年間に限定した引き直し計算も行うことがあります。