過払金回収の際の悪意の受益者の争点
はじめに
過払金請求をする際に、悪意の受益者の争点が問題になることがあります。「悪意の受益者」(民法704条)というのは、簡単に言うと、貸金業者が、利息制限法の制限利率を超える利息(グレーゾーン金利)を受領できないことを知っていたというような意味です。
仮に、消費者金融・クレジットカード会社が、悪意の受益者であれば、過払金に年5%(過払金の発生時期によっては年3%)の利息が付加されますが、そうでないのであれば、過払金に利息が付加されません。利率自体も大きいですし、何年にもわたって利息が付きますので、請求できる過払金の額に大きな差が出ることがあります。
争点についての最高裁判所の判例
悪意の受益者の争点については、以下の最高裁判所の判決があります(読みやすくするために、最高裁判所の原文に一部改変を加えています)。
最高裁判所平成19年7月13日判決
「貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが、その受領につき貸金業法43条1項の適用が認められない場合には、当該貸金業者は、
①同項の適用があるとの認識を有しており、
かつ、
②そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるとき
でない限り、法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者、すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される」(最高裁判所平成19年7月13日判決)。
最高裁判所判例の解説
最高裁判所の判例に、「貸金業法43条1項」とありますが、これは、みなし弁済と言われる規定です。みなし弁済とは、グレーゾーン金利の取得を一定の要件のもと認めるものですが、最高裁判所において要件が満たされる場合が厳格に判断されています。そのため、貸金業者との取引でみなし弁済が認められることはまずありません。
そして、上記の最高裁判所の判断で、みなし弁済の適用が認められない場合には、貸金業者は悪意の受益者と推定されています。そのため、過払金に利息を付加すべきかの判断にあたって、消費者側が、貸金業者が悪意の受益者であることを証明する必要はなく、貸金業者側が、①同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、②そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情を証明しない限り、悪意の受益者と判断される(=過払金に利息が付加される)ことになります。
次に、上記①②の特段の事情が証明されることがあるかですが、「①同項の適用があるとの認識を有しており」の部分については、貸金業者はそのように認識していたと言えるかもしれません。しかし、②そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるかについては、みなし弁済の規定ができた当初の頃から、多くの文献や裁判例で、みなし弁済の要件である貸付の際に交付すべき書面(17条書面)、弁済の際に交付すべき書面(18条書面)の記載要件について、厳格に判断すべきことが示されています。そのため、貸金業者について、悪意の受益者であるとの推定が覆る(=過払金に利息が付加されない)ことはまず考えられません。
過払金回収の際の過払利息の取扱い
このように、ほとんどの場合について、法的には過払金には利息が付加されることになります。ただ、過払金を回収するための交渉の際は、ほとんどの貸金業者は、過払金に利息を付加しない前提の金額しか返還に応じません。裁判をすれば、利息も含めた満額近くの回収の可能性が見えてきますが、弁護士費用や手続きにかかる期間を考慮すると、裁判をするのが困難で、利息を付加しない前提の金額で和解せざるを得ないケースもあります。
また、上記のとおり、裁判では、利息も含めた満額近くの回収の可能性が見えてきますが、裁判においても、手続きにかかる期間や他の争点の兼ね合い等も見て、依頼者の方のご希望により、ある程度の所で和解による解決を図るケースもあります。
弁護士によるまとめ
以上のとおり、過払金回収の際は、悪意の受益者(過払金に利息を付加するかどうか)の点が問題になることがあります。この問題点については、法的には、ほとんどのケースで利息が付加されます。ただ、過払利息まで含めて回収するには、費用と時間がかかるケースもあります。当事務所では、利息まで含めた場合の回収額、その場合に必要になる費用や時間のある程度の見通しもお伝えした上で、過払金請求の手続きを進めています。過払金回収の際は、他にも様々な争点が問題になることがありますが、弁護士に依頼すれば、手続きの進行を任せることができます。一度みお綜合法律事務所にお問い合わせください。
