過払金回収に関わる様々な利率

更新日 2022/11/10
この過払金コラムを書いた弁護士
弁護士 羽賀 倫樹(はが ともき)

出身地:大阪府出身、奈良県育ち。出身大学:大阪大学法学部。

利息制限法所定の利率の適用方法

過払金を算定する際は、借主と貸金業者との間で設定した約定利率を利息制限法所定の利率に引き直して計算を行います。この利息制限法所定の利率ですが、以下のように定められています(利息制限法1条)。

 

元本の金額 利率
元本が10万円未満 年20%
元本が10万円以上100万円未満 年18%
元本が100万円以上 年15%

ところで、貸金業者との取引では、当初借入をした後、新たな借入と弁済が繰り返されることにより借入残高に増減が生じることがあります。このように借入残高が増減する取引における過払金の計算上、何をもって利息制限法1条1項にいう元本と考えるかが問題となります。この点について最高裁判所平成22年4月20日判決は、以下のように判断しています。

 

利息制限法1条1項にいう元本についての最高裁判所の判斷

利息制限法における元本とは、約定利率に基づいて存在する元本ではなく、利息制限法所定の利率に引き直した上で存在する元本のことを指す。
取引の過程で借入れがされたことによって、借入金元本が利息制限法1条所定の各区分における上限額を超えることになったとき、すなわち、借入金元本が10万円未満から10万円以上に、あるいは100万円未満から100万円以上に増加したときは、適用される制限利率が変更され、新たな制限を超える利息の約定が無効となる。
一方、返済によって借入金元本が利息制限法の各区分における下限額を下回っても、いったん無効となった利息の約定が有効になることはなく、適用される制限利率は変更されない。

①の具体例(元本の意味)

①の具体例ですが、約定利率に基づくと100万円の借入がある場合でも、引き直し計算をすると借入残高が50万円である場合、15%の利率ではなく、18%の利率が適用されます。

 

②の具体例(元本が増えた場合)

②の具体例ですが、上記①の状態で80万円を追加借入して、引き直し計算後でも残高が100万円を越えた場合、15%の利率が適用されます。

 

③の具体例(元本が減った場合)

③の具体例ですが、上記②の状態から返済を進め、引き直し計算後の残高が90万円になった場合でも、適用される利率が18%に上がることはなく、15%の利率が適用されることになります。

 

この最高裁判所は、貸金業者が取得できる利率が低くなるように判断したものと言えますので、借主にとって有利な判断をしたものと言えます。

なお、②について、現在では利息制限法5条1号で②と同じ内容が定められています。

遅延損害金利率の適用方法

借主が返済期限までに返済ができなかった場合、通常の利率ではなく、より高率の遅延損害金利率が適用されます。貸金業者との取引における遅延損害金利率の上限は、時期に応じて以下のように定められています(利息制限法4条、7条1項)。

遅延損害金利率の上限

貸金業者との取引時期 上限利率
2000年5月31日まで 利息制限法の上限利率の2倍
2000年6月1日から2010年6月17日まで 利息制限法の上限利率の1.46倍
2010年6月18日以降 20%

具体的には、2000年5月31日までは、残元本に応じて年30%~40%の遅延損害金が認められます。また、2000年6月1日から2010年6月17日までは、残元本に応じて年21.9%~29.2%の遅延損害金が認められます。

遅延損害金利率は、借主が一度でも返済期限に遅れると、その後ずっと適用されるのが原則です。ただ、貸金業者のリボ取引では、1日でも遅れたらその後ずっと遅延損害金利率を適用するということは少なく、遅れた日数分だけ遅延損害金利率を適用するのが一般的です。これは、遅延損害金をずっと適用して追加借入をできないようにするよりも、追加借入を認め取引を継続する方が貸金業者の利益につながるために行われているものと思われます。

以上のような取り扱いが行われているため、引き直し計算の際も、遅れた日数分だけ遅延損害金利率を適用するのが一般的と言えます。

過払金利率について

貸金業者との取引で過払金が発生した場合、法的にはほとんどのケースで過払金に利息が付加されます。2020年4月1日以降は商事法定利率の規定がなくなり、民法所定の法定利率に一本化されたため、2020年4月1日以降に発生した過払金については、民法404条2項・3項により、3%または変動後の法定利率が適用されます。ただ、2020年3月31日以前に発生した過払金は、商事法定利率の規定があったため、民法の利率(5%)を適用すべきか、商法の利率(6%)を適用すべきかが問題となりました。

この点について、最高裁平成19年2月13日判決は、以下のように判断しています(読みやすくするために、最高裁判所の原文に一部改変を加えています)。

 

 

最高裁平成19年2月13日判決(原文を一部改変)

「(過払金について)悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率は、民法所定の年5分と解するのが相当である。なぜなら、商法514条の適用又は類推適用されるべき債権は、商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものでなければならないところ、上記過払金についての不当利得返還請求権は、高利を制限して借主を保護する目的で設けられた利息制限法の規定によって発生する債権であって、営利性を考慮すべき債権ではないので、商行為によって生じたもの又はこれに準ずるものと解することはできないからである。」

 

 

以上の最高裁判所判決により、過払金に付加される利息は、民法所定の利率によることが確定しました。なお、貸金業者から過払金に利息が付加されるのは取引終了時からであるといった主張がされることがありましたが、リボ払いの場合でも、過払金が発生した時から利息が付加されます(最高裁判所平成21年9月4日判決)。

過払金に付加される利率が5%であると判断した最高裁判決は、借主に不利な判断をしたものと言えます。一方、過払金が発生した時から利息が付加されると判断した最高裁判決は、借主に有利な判断をしたものと言えます。

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