過払金発生額に関するケーススタディー

更新日 2022/10/11
この過払金コラムを書いた弁護士
弁護士 羽賀 倫樹(はが ともき)

出身地:大阪府出身、奈良県育ち。出身大学:大阪大学法学部。

はじめに

消費者金融やクレジットカード会社との取引では過払金が発生することがあります。それでは、具体的にはどれくらいの過払金が発生するのでしょうか。発生する過払金は、約定利率・取引金額・取引期間等によってケースごとに大きく異なりますが、モデルとなる事例をもとに見ていきます。

具体例と最高裁判所の判断

例えば、50万円を年利28%で借り入れ、利息部分だけ支払を継続した場合(※)、超過しているのは10%分ですので、10年経つと50万円と払いすぎた分を相殺でき、実質的に借金がなくなるようにも思えます。また実質的に元本がなくなったあとに発生する過払金は年5万円、仮に利息が18%に引き下げられるとその後は過払金が発生しないようにも思えます。

※実際には利息のみならず元本部分も支払いつつ、借入枠に空きができると追加借入をするようなケースが多いと思いますが、このページでは分かりやすくするため、利息部分だけ支払いを継続したという形にしています。

 

約定利率が利息制限法の利率を超えているために発生した払い過ぎた分がどのように取り扱われるかについては、以下の最高裁判所の判例があります(読みやすくするために、最高裁判所の原文に一部改変を加えています)。

最高裁判所大法廷昭和39年11月18日判決

「債務者が、利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息、損害金を任意に支払ったときは、右制限をこえる部分は民法491条により残存元本に充当される。

債務者が利息、損害金の弁済として支払った制限超過部分は、強行法規である本法1条、4条の各1項により無効とされ、その部分の債務は存在しないのであるから、その部分に対する支払は弁済の効力を生じない。従って、債務者が利息、損害金と指定して支払っても、制限超過部分に対する指定は無意味であり、結局その部分に対する指定がないのと同一であるから、元本が残存するときは、民法491条の適用によりこれに充当されるものといわなければならない。

本法1条、4条の各2項は、債務者において超過部分を任意に支払ったときは、その返還を請求することができない旨規定しているが、それは、制限超過の利息、損害金を支払った債務者に対し裁判所がその返還につき積極的に助力を与えないとした趣旨と解するを相当とする。

また、本法2条は、契約成立のさいに債務者が利息として本法の制限を超過する金額を前払しても、これを利息の支払として認めず、元本の支払に充てたものとみなしているのであるが、この趣旨からすれば、後日に至って債務者が利息として本法の制限を超過する金額を支払った場合にも、それを利息の支払として認めず、元本の支払に充当されるものと解するを相当とする。」

利率が高いために払い過ぎた部分は、貸付金と併存して貸金業者の手元に残った状態になるのではなく、判決文の最初の部分の通り、借入金の元本に充当されます。払い過ぎた部分が元本に充当されることの意味ですが、充当により元本が減り、貸金業者は減った元本に対する利息しか受領できなくなりますので、併存するよりも、今後の支払において払い過ぎの利息が増えてより多くの金額が元本に充当され、さらに元本が減っていくことになります。また、1回でも利息の払い過ぎがあった後で、貸金業者が利率を利息制限法内の利率に変更したとしても、約定元本より少なくなった元本に対してしか利息が発生しない状態になっていますので、利息の払い過ぎは継続的に発生することになります。

50万円を年利28%で借り入れ、利息部分だけ支払を継続した場合で見ると、6年弱で元本がなくなります。貸付金と払い過ぎた利息が併存すると実質的に元本がなくなるまでに10年かかることを考えると、かなりの短期間で元本がなくなることが分かります。

そして、元本がなくなった後に支払った金銭は過払金となり、貸金業者に返還請求ができます。そのことについて判示したのが、以下の最高裁判所判例です(読みやすくするために、最高裁判所の原文に一部改変を加えています)。

最高裁判所大法廷昭和43年11月13日判決

「債務者が利息制限法所定の制限をこえて任意に利息・損害金の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当すると、計算上元本が完済となったとき、その後に支払われた金額は、債務が存在しないのにその弁済として支払われたものに外ならないから、この場合には、右利息制限法の法条の適用はなく、民法の規定するところにより、不当利得の返還を請求することができる」

過払金額のケーススタディー

ここからは、仮定の事例に基づいて、過払金がどれくらい発生するかを見ていきます。

事例1(2006年からの取引の事例)

  • 2006年1月に年利25.55%で20万円を借入、毎月利息相当額のみ返済
  • 2008年1月に年利18%に変更して30万円を追加借入
  • 2018年12月にまとめて50万円を返済して完済

利息制限法所定の利率を超える期間が短く、取引枠も比較的小さかったという事例です。

このケースでは、完済後の過払金利息を考慮しない場合で、25万円ほどの過払金が発生します。

事例2(2002年からの取引の事例)

  • 2002年1月に年利27.375%で50万円を借入、毎月利息相当額のみ返済
  • 2008年1月に年利18%に変更、その後も毎月利息相当額のみ返済
  • 2020年12月にまとめて50万円を返済して完済

利息制限法所定の利率を超える期間が6年あり、その後も長期にわたり返済を続けたという事例です。このケースでは、完済後の過払金利息を考慮しない場合で、200万円ほどの過払金が発生します。取引枠が大きくなり、利率の高い期間が長くなると、一気に過払金が大きくなることが分かります。

事例3(1990年からの取引の事例)

  • 1990年1月に年利29.2%で50万円を借入、毎月利息相当額のみ返済
  • 2000年1月に利息を23%に変更するとともに50万円を追加借入
  • 2010年1月に利息を15%に変更するとともに100万円を追加借入
  • 2022年12月にまとめて200万円を返済して完済。

取引期間が30年以上で、そのうち20年間は利率が高く、借入枠は徐々に大きくなっていったという事例です。このケースでは、完済後の過払金利息を考慮しない場合で、880万円ほどの過払金が発生します。さらに長期間の取引をしている方であれば、1000万円を超える過払金が発生していることもあります。

弁護士によるまとめ

いずれの事例も少し条件を変更するだけで発生する過払金が大きく変わります。実際の事例でも、ちょっとした条件の違いで、発生する過払金の額が大きく変わるケースがよくあります。2008年(平成20年)頃より前から消費者金融やクレジットカード会社とのキャッシング取引をしていて、過払金のことが気になっている方は、まずは弁護士による過払金調査をお勧めします。
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