過払金回収の際のみなし弁済の問題点

更新日 2022/08/22
この過払金コラムを書いた弁護士
弁護士 羽賀 倫樹(はが ともき)

出身地:大阪府出身、奈良県育ち。出身大学:大阪大学法学部。

はじめに

過払金請求をする際に、かつてはみなし弁済が認められるかの問題がありました。みなし弁済とは、一定の要件のもと、利息制限法の制限利率を超える利息の取得を貸金業者に認めるというものです。みなし弁済が認められると過払金が発生しませんので、かつては激しく争われていた争点です。

みなし弁済が認められるためには、以下の①~④の全てを満たす必要があります。

みなし弁済の要件

①貸金業者に対する利息または損害金の支払であること

②貸金業法17条所定の記載要件を満たした書面が借主に交付されたこと(17条書面の交付)

③貸金業法18条所定の記載要件を満たした書面が借主に交付されたこと(18条書面の交付)

④法定利息を超える金銭を、利息または損害金として、任意に支払ったこと(任意性の要件)

現在ではみなし弁済の規定は廃止されましたが、みなし弁済の規定があったころの取引でも、上記①~④の要件のいずれかでも満たさない場合は、みなし弁済は認められません。

以下では、よく問題になっていた、②③④の要件について見ていきます。

②17条書面の交付

17条書面とは、貸付契約時に、貸主から借主に交付しなければならない書面のことです。貸金業法17条で規定されているため、この書面は17条書面と言われています。

17条書面には、以下の内容を記載しなければなりません(貸金業法17条1項)。

17条書面に記載が必要な項目

① 貸金業者の商号、名称又は氏名及び住所

② 契約年月日

③ 貸付けの金額

④ 貸付けの利率

⑤ 返済の方式

⑥ 返済期間及び返済回数

⑦ 賠償額の予定に関する定めがあるときは、その内容

⑧ ①~⑦のほか、内閣府令で定める事項

以上の17条書面の記載事項で欠ける部分があると17条書面の要件を満たさず、みなし弁済は認められません。そして、記載事項のうち、リボ払いの場合の、⑥の返済期間及び返済回数の記載内容について判示した以下の最高裁判所の判決が重要です(読みやすくするために、最高裁判所の原文に一部改変を加えています)。

「貸金業者の業務の適正な運営を確保し、資金需要者等の利益の保護を図ること等を目的として、貸金業に対する必要な規制等を定める法の趣旨、目的(法1条)等にかんがみると、法43条1項の規定の適用要件については、これを厳格に解釈すべきものであり、17条書面の交付の要件についても、厳格に解釈しなければならず、17条書面として交付された書面に法17条1項所定の事項のうちで記載されていない事項があるときは、法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。そして、仮に、当該貸付けに係る契約の性質上、法17条1項所定の事項のうち、確定的な記載が不可能な事項があったとしても、貸金業者は、その事項の記載義務を免れるものではなく、その場合には、当該事項に準じた事項を記載すべき義務があり、同義務を尽くせば、当該事項を記載したものと解すべきであって、17条書面として交付された書面に当該事項に準じた事項の記載がないときは、17条書面の交付があったとは認められず、法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。」

「本件各貸付けは、本件基本契約の下で、借入限度額の範囲内で借入れと返済を繰り返すことを予定して行われたものであり、その返済の方式は、追加貸付けがあっても、当該追加貸付けについての分割払の約束がされるわけではなく、当該追加貸付けを含めたその時点での本件基本契約に基づく全貸付けの残元利金(以下、単に「残元利金」という。)について、毎月15日の返済期日に最低返済額及び経過利息を支払えば足りるとするものであり、いわゆるリボルビング方式の一つである。したがって、個々の貸付けについての「返済期間及び返済回数」や各回の「返済金額」(以下、「返済期間及び返済回数」と各回の「返済金額」を併せて「返済期間、返済金額等」という。)は定められないし、残元利金についての返済期間、返済金額等は、被上告人が、今後、追加借入れをするかどうか、毎月15日の返済期日に幾ら返済するかによって変動することになり、上告人が、個々の貸付けの際に、当該貸付けやその時点での残元利金について、確定的な返済期間、返済金額等を17条書面に記載して被上告人に交付することは不可能であったといわざるを得ない。

しかし、本件各貸付けについて、確定的な返済期間、返済金額等を17条書面に記載することが不可能であるからといって、上告人は、返済期間、返済金額等を17条書面に記載すべき義務を免れるものではなく、個々の貸付けの時点での残元利金について、最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間、返済金額等を17条書面に記載することは可能であるから、上告人は、これを確定的な返済期間、返済金額等の記載に準ずるものとして、17条書面として交付する書面に記載すべき義務があったというべきである。」

「前記事実関係によれば、本件基本契約書の記載と本件各確認書等の記載とを併せても、確定的な返済期間、返済金額等の記載に準ずる記載があると解することはできない。したがって、本件各貸付けについては、17条書面の交付があったとは認められず、法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。」(最高裁判所平成17年12月15日判決)。

 

以上の最高裁判決では、リボ払いの契約の場合に、17条書面に個々の貸付けの時点での残元利金について、最低返済額及び経過利息を一定の返済期日に返済する場合の返済期間、返済金額等を記載することを求め、記載がなければみなし弁済の要件のうち、②の17条書面の要件が満たされず、みなし弁済は認められないと判断されています。

そして、上記の返済期間、返済金額等は、リボ払いの17条書面では多くの場合記載されていません。そのため、この最高裁判決により、多くの貸金業者が採用しているリボ払いの多くで、みなし弁済が認められなくなった言われます。

③18条書面の交付

18条書面とは、弁済時に、貸主から借主に交付しなければならない書面のことです。貸金業法18条で規定されているため、この書面は18条書面と言われています。

18条書面には、以下の内容を記載しなければなりません(貸金業法18条1項)。

18条書面に記載が必要な項目

① 貸金業者の商号、名称又は氏名及び住所

② 契約年月日

③ 貸付けの金額

④ 受領金額及びその利息、賠償額の予定に基づく賠償金又は元本への充当額

⑤ 受領年月日

⑥ ①~⑤のほか、内閣府令で定める事項

以上の18条書面の記載事項で欠ける部分があると18条書面の要件を満たさず、みなし弁済は認められないはずですが、①②③については、貸金業法施行規則15条2項により、契約番号等で代替することが認められていました。18条書面の要件については、この代替が認められるかについて判示した以下の最高裁判所の判決が重要です(読みやすくするために、最高裁判所の原文に一部改変を加えています)。

「貸金業法18条1項が、貸金業者は、貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは、同項各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない旨を定めているのは、貸金業者の業務の適正な運営を確保し、資金需要者等の利益の保護を図るためであるから、同項の解釈にあたっては、文理を離れて緩やかな解釈をすることは許されないというべきである。

同項柱書きは、「貸金業者は、貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときは、その都度、直ちに、内閣府令で定めるところにより、次の各号に掲げる事項を記載した書面を当該弁済をした者に交付しなければならない。」と規定している。そして、同項6号に、「前各号に掲げるもののほか、内閣府令で定める事項」が掲げられている。

同項は、その文理に照らすと、同項の規定に基づき貸金業者が貸付けの契約に基づく債権の全部又は一部について弁済を受けたときに当該弁済をした者に対して交付すべき書面(以下「18条書面」という。)の記載事項は、同項1号から5号までに掲げる事項(以下「法定事項」という。)及び法定事項に追加して内閣府令(法施行当時は大蔵省令。後に、総理府令・大蔵省令、総理府令、内閣府令と順次改められた。)で定める事項であることを規定するとともに、18条書面の交付方法の定めについて内閣府令に委任することを規定したものと解される。したがって、18条書面の記載事項について、内閣府令により他の事項の記載をもって法定事項の記載に代えることは許されないものというべきである。

上記内閣府令に該当する施行規則15条2項は、「貸金業者は、法第18条第1項の規定により交付すべき書面を作成するときは、当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって、同項第1号から第3号まで並びに前項第2号及び第3号に掲げる事項の記載に代えることができる。」と規定している。この規定のうち、当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって、法18条1項1号から3号までに掲げる事項の記載に代えることができる旨定めた部分は、他の事項の記載をもって法定事項の一部の記載に代えることを定めたものであるから、内閣府令に対する法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。」(最高裁判所平成18年1月13日判決)

 

以上の最高裁判決では、18条書面について、貸金業法施行規則の規定内容に関わらず、契約番号の記載では法律の要件を満たさず、①貸金業者の商号、名称、または氏名および住所、②契約年月日、③貸付金額の記載が必要と判断されています。

そして、多くの貸金業者は、18条書面の記載内容について、貸金業法施行規則の規定に合わせていたと考えられます。そのため、この最高裁判決により、多くの貸金業者について、みなし弁済が認められなくなったと考えられます。

④任意性の要件

みなし弁済が認められるためには、法定利息を超える金銭を、利息または損害金として、任意に支払ったことが必要になります(貸金業法旧43条)。これを任意性の要件と言います。任意性の要件が満たされない場合は、みなし弁済は認められません。任意性の要件については、認められない場合を判示した以下の最高裁判所の判決が重要です(読みやすくするために、最高裁判所の原文に一部改変を加えています。なお、③の18条書面の裁判例と同じ裁判例です。)。

「債務者が、事実上にせよ強制を受けて利息の制限額を超える額の金銭の支払をした場合には、制限超過部分を自己の自由な意思によって支払ったものということはできず、法43条1項の規定の適用要件を欠くというべきである。」

「(「元金又は利息の支払いを遅滞したとき‥は催告の手続きを要せずして期限の利益を失い直ちに元利金を一時に支払います。」との)本件期限の利益喪失特約がその文言どおりの効力を有するとすると、債務者は、支払期日に制限超過部分を含む約定利息の支払を怠った場合には、元本についての期限の利益を当然に喪失し、残元本全額及び経過利息を直ちに一括して支払う義務を負うことになる上、残元本全額に対して遅延損害金を支払うべき義務も負うことになる。このような結果は、債務者に対し、期限の利益を喪失する等の不利益を避けるため、本来は利息制限法1条1項によって支払義務を負わない制限超過部分の支払を強制することとなるから、同項の趣旨に反し容認することができず、本件期限の利益喪失特約のうち、債務者が支払期日に制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は、同項の趣旨に反して無効であり、債務者は、支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば、制限超過部分の支払を怠ったとしても、期限の利益を喪失することはなく、支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り、期限の利益を喪失するものと解するのが相当である。

そして、本件期限の利益喪失特約は、法律上は、上記のように一部無効であって、制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはないけれども、この特約の存在は、通常、債務者に対し、支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り、期限の利益を喪失し、残元本全額を直ちに一括して支払い、これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え、その結果、このような不利益を回避するために、制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制することになるものというべきである。

したがって、本件期限の利益喪失特約の下で、債務者が、利息として、利息の制限額を超える額の金銭を支払った場合には、上記のような誤解が生じなかったといえるような特段の事情のない限り、債務者が自己の自由な意思によって制限超過部分を支払ったものということはできないと解するのが相当である。」(最高裁判所平成18年1月13日判決)。

 

以上の最高裁判決では、利息制限法の制限利率を超える利率が定められている場合に、「元金又は利息の支払いを遅滞したとき‥は催告の手続きを要せずして期限の利益を失い直ちに元利金を一時に支払います。」との期限の利益喪失特約がある場合は、みなし弁済の要件のうち、④の任意性の要件が満たされず、みなし弁済は認められないと判断されています。

そして、「元金又は利息の支払いを遅滞したとき‥は催告の手続きを要せずして期限の利益を失い直ちに元利金を一時に支払います。」との期限の利益喪失特約は、全ての貸金業者が採用していた内容です。そのため、この最高裁判決により、みなし弁済が認められる可能性はなくなったと言われています。

弁護士によるまとめ

このように、最高裁判所の判断により、貸金業者との取引でみなし弁済が認められる可能性はなくなりました。貸金業者の立場でみると、利息制限法の制限利率を超える利率を設定していたにもかかわらず、超過分の取得が認められなくなり、借主の立場でみると、支払った超過分を過払金として請求できるようになったことになります。

以上の内容は、なぜ過払金を請求できるのかについての豆知識として知っておいてもいいかもしれません。
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