過払金回収の際の取引分断の争点

更新日 2022/06/17
この過払金コラムを書いた弁護士
弁護士 羽賀 倫樹(はが ともき)

出身地:大阪府出身、奈良県育ち。出身大学:大阪大学法学部。

はじめに

過払金請求をする際に、取引が分断しているかが問題になることがあります。この問題点は、消費者金融やクレジットカード会社と借入・返済を繰り返しているものの、途中で完済し、再度取引を開始した場合に争点になります。この争点について、途中完済と再借入により、取引が分断と判断されると、発生する過払金は少なくなります。また、一旦完済した時期が10年以上前で、再借入の時は法定利率での契約であると、過払金が回収できなくなる場合があるため、過払金請求をする上で重要な争点と言えます。

取引分断に関する最高裁判所の判決内容

取引が分断しているかどうかをどのように判断するかについて、以下の最高裁判所の判決があります(読みやすくするために、最高裁判所の原文に一部改変を加えています)。

最高裁判所の判決

「同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され、この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが、過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず、その後に、両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され、この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には、第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り、第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は、第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当である。

そして、①第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さや、②これに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間、③第1の基本契約についての契約書の返還の有無、④借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無、⑤第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況、⑥第2の基本契約が締結されるに至る経緯、⑦第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して、第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず、第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には、上記合意が存在するものと解するのが相当である。」(最高裁判所平成20年1月18日判決)

最高裁判所の判断要素の解説

以上の最高裁判所の判断内容については、分かりにくい部分もあると思いますので、以下詳しく解説します。

7つの判断要素に関する考察

まず、「同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され‥その後に、両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され」と判示されていますので、1つ目の取引と2つ目の取引が別の基本契約に基づくものであることが前提になります。その上で、①〜⑦の要素は概ね下記のように考えられています。

①第一取引の期間

①の「第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さ」については、取引期間が長いほど一連と判断されやすくなります。

②貸付再開までの期間

②の「これに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間」については、取引がなかった期間が短いほど一連と判断されやすくなります。最高裁判所の事案は、約3年間取引がない期間がなかったこともあり、一連性を認めた高等裁判所の判断が破棄され差し戻されています。そのため、空白期間が3年を超えると一連性がかなり認められにくくなると言われることもあります。また、近時は数か月の空白期間でも分断と判断する裁判例があります。

③契約書の返還の有無

③の「第1の基本契約についての契約書の返還の有無」については、基本契約を解約すると通常契約書が返還されますが、通常とは異なり契約書が返還されない場合があります。このような事実は、一連と判断する一材料になります。

④カードの失効手続の有無

④の「借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無」については、基本契約を解約すると通常カードも失効になりますが、カードが失効していない場合があります。このような事実は、一連と判断する一材料になります。

⑤中断期間における貸主と借主との接触の状況と、⑥第2契約が締結されるに至る経緯

⑤の「第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況」と、⑥の「第2の基本契約が締結されるに至る経緯」については、業者が取引再開の勧誘をしている事実があると、一連と判断する一材料になります。

⑦利率等の契約条件の異同

⑦の「第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同」については、第1契約と第2契約で利率・遅延損害金利率・借入枠・返済期日等が同じである場合、一連と判断する一材料になります。

その他の考慮要素

また、最高裁は①〜⑦「等」と判示していますので、①〜⑦以外の要素が考慮されることがあります。例えば、第1取引の完済時にまとまった金額を返済しているかが問題となることがあります。完済時にまとまった金額を返済するのではなく、毎月のリボ払いを繰り返す中で完済に至ったような場合は、取引を終了させる意思が弱かったとして、一連と判断されやすいと言われることがあります。

過払い金請求で解決する金額の実際

このように分断の争点については、最高裁判所の判断が示されていますが、内容は抽象的なもので、判断がぶれやすいと言えます。

例えば、最高裁判所の判断は、基本契約が別であることを前提にしていますが、基本契約が同じであっても分断と判断されているケースもあります。ただ、基本契約が解約されているかは重要な事実と捉えられることが多く、解約がない方が一連と判断される可能性が高くなる傾向はあります。

また、①の取引期間や、②の空白期間について、どれくらいであれば判断に影響するのかはっきりとはしていません。②の空白期間は、数ヶ月しか空白がなくても、他の要素も踏まえた上で、分断とされることもある一方、より長い空白期間でも一連とされることもあります。

その他の要素も、どのような事実があるとどの程度判断に影響があるのか明確ではありません。

そのため、具体的な取引内容から見て一連となるか分断となるかは、業者や裁判所によって判断が大きく異なる傾向があります。実際には、取引が一連であるか分断になるか判断されず、一連になる可能性と分断になる可能性かどの程度であるかを踏まえて、双方の主張する間の金額で解決していることが多いと言えます。

弁護士によるまとめ

以上、過払金請求にあたって問題となる分断の争点について解説しました。ややこしそうに見える争点ですが、手続きを弁護士に依頼いただくと、一連・分断の主張や判断も弁護士に任せることができます。
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